【大根の煮物を科学する】科学的視点で調理スキルアップへ

【大根の煮物を科学する】科学的視点で調理スキルアップへ

そろそろ大根が美味しい時期になりましたね。

大根を煮物にしようとすると、煮汁が大根臭くなったり、大根が煮崩れてしまったり・・・。シンプルだけど意外と難しい大根を科学して煮物を作っていきたいと思います。

消化に関わる大根の酵素パワー

大根には消化酵素がたっぷりと含まれています。例えば肉を柔らかくする時などに大根おろしに漬け込むことがありますよね。あれはタンパク質分解酵素であるプロテアーゼのおかげ。他にもジアスターゼやリパーゼが含まれているので、デンプン(糖)・タンパク質・脂質を分解できるすごい野菜なのです。

ジアスターゼ(アミラーゼ)

唾液に含まれる消化酵素、って中学校で習う酵素と同類です。デンプンを糖に分解する消化酵素なのでこれを働かせることによって野菜に甘みを出していきます。例えば焼き芋を焼くときは低温でじっくり焼くことでβ-アミラーゼという酵素を働かせて甘みを出していくんですね。ただし甘みを出すとホクホクとした食感は失われて、ねっとりとしてきます。これは、イモ類のホクホクとした食感はデンプン由来のものだからです。甘みを重視するとホクホクとした食感は失われ、ホクホクとした食感を重視すると甘みが失われてしまうんですね。美味しい焼き芋屋さんはこのバランスが上手いのです。

ただ、最近ではねっとりとした食感が好まれることが多くなったので、甘みをこれでもかと重視する焼き芋屋さんが増えています。とはいえ、ただ低温で焼き上げるとペクチンエステラーゼという酵素も働いてしまい、芋がどんどん硬くなってしまうのでそう簡単な話ではないんですけどね。焼き芋の焼き方についてはまた今度別の記事で紹介することにしましょう。

プロテアーゼ

みんな大好きタンパク質分解酵素です。よくTVなどで肉を柔らかくする方法!といって紹介するやり方は大体この酵素を利用したものです。大根以外には、玉ねぎ、しょうが、マイタケ、パイナップル、キウイなどが有名ですね。パイナップルやキウイを食べすぎると口の中が痺れてくるのもこの酵素のせい。生姜焼きは漬け込みタイプと後からタレを絡めるタイプがありますが、漬け込んだほうが柔らかくなるのがわかりますね。ちなみにプロテアーゼは加熱すると失活してしまうのでチューブ入りのおろし生姜には含まれていません。ああいった製品は加熱消毒するので。

リパーゼ

ダイエッターに嬉しい脂質分解酵素。脂がのった焼き魚に添えたり、天ぷらのつゆに溶かしたりするとさっぱりして食べやすくなりますよね。あれは実は感覚的なものではなく、脂質が分解されて栄養素的にもさっぱりしていたんです!美味しくなるのに健康に良いなんて素晴らしい・・・。とはいえ、食べ過ぎは禁物ですよ。過ぎたるは何とやらです。

大根の煮物を科学する

さて、本題に入ります。今回は大根の煮物。基本的に煮物の工程は1.食材を切る、2.下茹で、3.味付け、4.煮含めるといったもの。今回もこの工程に沿って解説していきます。

1.食材を切る

最初は食材を切るところから。大根の煮物の場合、少量作る場合は煮崩れしにくい下の方の部分を使うのが良いとされてますが、上の方が柔らかく甘みが強いので僕は煮物でも上の方を使います。ベストは真ん中。煮物用の大根を使うのも良し。柔らかいと煮崩れしやすいですが、下茹での項で説明する方法を使えば簡単に煮崩れを防ぐことが出来るので気にしなくても大丈夫です。

皮を剥くか剥かないか

さて、大根を切る前にまずは皮を剥くか剥かないかがまず問題になりますね。これは作る料理によって変えるのが正解。例えばおでんやふろふき大根のように、できるだけ上品に仕上げたかったり、食感を均一にしたい時は剥くのが良いでしょう。皮を剥く時は5mmほどの厚さで大胆に剥いてください。なぜならば根菜類の皮下には中心部よりも硬い層があるのです。

写真は赤大根ですがこっちのほうがわかりやすいと思います。皮下の濃い紫の部分が硬いところ。意外と厚いんですね。ここまで剥かないと皮を剥いた意味がありません。

普通の大根ではわかりにくいかもしれませんが皮下に維管束が円状に並んでいるのでそこより下を剥いてください。

ちなみに剥いた皮はそのまま捨てるのはもったいないので浅漬けにしたりきんぴらにしたりして有効利用しましょう。

さて、皮を剥かない場合ですが、これは臭みの強い食材と一緒に煮る時。例えばぶり大根など。臭いを消すためには、単純に臭いを飛ばす(揮発させる)以外に臭いを臭いでマスキングする方法があります。ぶり大根の場合は、ぶりの生臭さを大根や生姜の匂いでマスキングして、ぶりの臭いを薄くしているわけです。

こんな感じで自分の作りたい料理に合わせて皮を剥く剥かないは決めてください。

どんな形に切るか

次に切り方ですが、煮物にする場合は輪切りか乱切りかのどちらかにします。これは皮を剥いた場合は輪切り、皮を剥かない場合は乱切りとするのが良いと思います。というのも、乱切りにする目的は表面積を増やして煮汁の染み込みを良くするということなんですが、そもそも皮を剥くと染み込みが良くなるのでわざわざ煮崩れしやすい乱切りを選ぶメリットがありません。もちろん野菜にリズム感やごろっと感を出すときにも乱切りは使いますが、大根の煮物にはそこは考慮しなくて良いでしょう。

皮を剥く→輪切り

皮を剥かない→乱切り

としてしまって良いと思います。

2.下茹で

さてこの下茹での工程。まず下茹でをするか、しないかを考える必要があります。そして下茹でする場合には、水で下茹でするのか、米の研ぎ汁で下茹でするのか、水に生米を少量入れて下茹でするかの3パターンが一般的に知られている方法。

下茹でするかしないか

下茹でするかしないかは、下茹でをする理由から考えていきましょう。

下茹でする理由は

1.大根のアクを抜くこと。

2.予め柔らかくすることで調味液で煮る過程で必要な時間を少なくすること。

基本的にはこの2つ。

まず1番目の目的はつまり大根の匂いを水に溶かすということ。大根の匂い抜き。

さて、一つ問題がでてきました。

察しの良い方は気づいたかもしれませんが、大根の臭いを抜いてしまったら、臭みの強い食材をマスキング出来なくなります。つまり、皮を剥かない調理法の場合は下茹でしてはいけないのです。下茹でする大根は「臭いをとって上品に仕上げたい、皮を剥いた大根」ということになります。

何で下茹でするか

さて続いて下茹でパターンについて考えていきましょう。

1.水

2.米の研ぎ汁

3.水+米

この3つが定番。それぞれ考えていきましょう。

まず水はどうでしょうか。水で茹でると溶液濃度が薄いため、臭いがよく抜けます。ただし味は薄くなります。というのも、茹でると大根は水分を吸い込むためです。可もなく不可もなくという印象。

次に米の研ぎ汁です。そもそも米の研ぎ汁を入れる理由は「研ぎ汁に含まれるでんぷん質が大根のアクの成分を吸着する」というもの。結論から言うと、これは俗説で、そんな事実はありません
むしろ大根が糠臭くなってしまい美味しいとは言い難いものになります。糠の臭いで大根の臭いをマスキングしてしまった結果ですね。マスキングの良い?例です。
アク抜きのポイントは何を入れるか、ではなく大量の水で茹でる、つまり溶液濃度を薄くすることが重要なわけです。

最後に水と米で下茹でした場合。これのメリットは米の甘みが大根に移ること。なぜかというと、米のデンプンを大根のジアスターゼが分解して糖にするからです。茹で汁を飲んでみるとわかりやすいと思います。その茹で汁を大根が吸収するので甘くなるんですね。とはいえ、どうしても米の甘みという印象は拭えない感じです。

さて、どれがベストかというと、第4の選択肢「大量のだし汁で茹でる」です。
アクを抜くために大量の溶液で茹で、水っぽくなることを防ぐためにだし汁で旨味を補う、ということです。

だし汁で茹でる方法は大根の特性から選んだベストですが、大根に限らず、基本的にアク抜きのための下茹では大量の水で茹でることが重要なわけですね。また、それに加えて酒を入れると臭みが共沸効果によって揮発するので必ず加えるようにしましょう。

※煮崩れしない加熱法

さて前項の1.食材を切るでちょっと話題にした煮崩れしない方法ですが、これは根菜類全てで応用が効くものです。やり方は簡単、60度~70度の温度で1時間ほど加熱するだけ。この温度帯で加熱するとペクチンエステラーゼという酵素が働いて野菜は固くなっていきます。加熱してるのに柔らかくなるんじゃなくて硬くなるってなんだか面白くないですか?僕は結構驚きました。この硬化現象がよく分かるのが料理屋さんの煮物。味はしっかり入って柔らかいのに煮崩れはしてないですよね。これは大量に作ることによって60度~70度の温度帯を長い時間をかけて上昇していくため。美味しいものには必ず理由があるんですね。こういうのを解明していくのが分子調理学の分野です。

3.味付け

味付けのポイントは簡単です。さしすせその順番に入れるだけです。一応さしすせそをおさらいしましょう。

さ、砂糖
し、塩
す、酢
せ、醤油
そ、味噌

ですね。砂糖と塩の順番は味の入り方の問題です。塩を先に使ってしまうと砂糖の味が入らなくなるんです。というのも、砂糖よりも塩の分子の大きさが小さいので先に塩が入り込んでしまうと砂糖が入る余地がなくなってしまうから。酢は酸が揮発してしまうこと、醤油と味噌は香りが揮発してしまうから後に入れましょうってことです。

さて、これを考慮して味付けを考えていきます。

大根の煮物において必要な調味料は、出汁、酒、みりん、醤油。

酒は下茹での際に使ったので煮含める過程での味付けは出汁、みりん、醤油。

まず、最初に加えるのは出汁、みりんです。もし砂糖が入る場合でもみりんが先になります。というのも、アルコールは他のどんな調味料よりも先に浸透するためです。

次に加えるのは醤油を半量。ポイントはここで一度に全量加えない、ということ。醤油は香りが揮発してしまうというのは先に書きましたが、一番最後に全量入れると今度は味が染み込まないという事になってしまいます。塩が入るレシピであれば一度に全量でもいいですが、食材に塩味をつける調味料が醤油しかないため、醤油は味付けのための半量、香り付け+味付けのための半量に分けるのがポイントです。

4.煮含める

煮含める際の選択肢は火加減、蓋の有無、アクを取るか取らないか、煮た後に冷ますか冷まさないかでしょうか。

火加減は弱火か強火か

まず火加減についてです。

これは料理によって異なります。普通の煮物であれば弱火で沸騰するかしないかくらいの火加減で煮ていきますが、臭いの強い食材と共に煮る場合(魚介類など)は強火で沸き立たせながら煮ていきます。沸き立たせることで臭いを揮発させていくんですね。水は100度以上にはならないので、弱火で長時間やっても同様に臭いを飛ばすことはできます。でも強火の仕上がりとは食材の火の通り方がかわってしまうのです。弱火でも強火でも水は100度弱で常に加熱されている状態になっているため、弱火と強火の差は長時間かけて煮上げるか短時間で煮上げるかの時間の差。例え下茹での際に紹介した煮崩れない下処理を行っても、長時間かけてしまうと当然煮崩れてしまいます。それを防ぐために強火で一気に香りを揮発させて煮上げるんです。ちなみに煮含めていくときには落し蓋は必須です。特に強火で煮ていくときには必ず木や鉄製の落し蓋を使ってください。一般に落し蓋の役割は煮汁を循環させるため、と言われていますが、食材を動かないよう固定して煮崩れを防ぐ、という目的もあるんです。なので重さのある落し蓋を使ったほうが良いわけです。

蓋をするかしないか

さて、次に蓋をするかしないかですが、これは使う食材(特に肉類)によって異なります。

まず、蓋をすると煮汁の温度が上がり、蓋をしないと煮汁の温度が下がります。蓋をすると一定の高温下で煮ることが出来ますが、蓋をしない場合は空気に触れている上層部の煮汁が気化熱で冷やされ、煮汁がやや温度の低い状態になります。ただし、これらのやり方は主に弱火のときの考え方です。実際には蓋をすると食材の臭いがこもってしまうので、強火でがんがん煮ていく事が多いです。

蓋をする食材は主にコラーゲン質の多いバラ肉や、すじ肉など。豚など臭いの強いものは強火で煮ることのほうが多いですね。

蓋をしない食材は主にコラーゲン質の少ないももやロースなど。ただ、これらの肉を煮込む、というプロセスをすることは基本的にはありません。短時間で煮たほうが柔らかく美味しいからです。

なぜコラーゲン質の量で決めるのかだったり、なぜももやロースは短時間で煮るべきなのか、といった説明は今回は長くなるので省略します。追々別記事で肉の加熱について書くことにします。

アクを取るか取らないか

次にアクを取るか取らないかですが、間違いなく取ったほうが良いです。が、とりすぎも禁物。アクはえぐ味の成分(野菜であればシュウ酸など)ですが、それとともに香りの成分も含まれます。なので、とりすぎるとその食品から煮汁に溶け出した美味しい香りが薄くなってしまうんです。臭いの強い食材の場合や、出汁の香りを活かして上品に仕上げたい場合はその都度その都度取るべきですが、基本的には最初に沸き立たせて出てきたものを一回取るくらいで良いと思います。

煮たら一度冷ますか冷まさないか

最後に煮上がった後に冷ますか冷まさないかですが、基本的には冷ますべきです。冷めると煮汁が食材に染み込むからです。もちろん加熱中も浸透圧によって食材中に煮汁は染み込んでいきますが、冷ましていく途中にもっとも染み込みます。食材を加熱すると、食材の細胞内の水分が膨張し、行き場を失った水分は煮汁の中に溶け出していきます。そこから冷ますと、逆の現象が起き、食材の細胞内の水分が収縮し、その際に、細胞に空いたスペースに煮汁が入り込み、味が染み込んでいきます。なので、冷ましたほうが良いわけです。

ただし、魚を似た場合は別です。魚の場合は冷ますと身がしまって硬くなってしまうので、煮たらすぐに食べます。なので煮汁を煮詰めて味を濃くし、煮汁に絡めて食べることが多いです。

まとめ

今回は大根の煮物についてご紹介しました。意外と単純に見える調理にもいろいろ科学が潜んでいるんです。なぜそうなるのか、を理解すればどんな料理にも応用が効き、レシピを見ずとも料理できるようになりますし、新しい料理を創り出すことも出来るかもしれません。